TEST SERVICE
試験サービス
HYDROGEN EMBRITTLEMENT TEST
水素社会への道
技術革新とエネルギー転換の課題と展望
脱炭素社会の実現に向け、水素は次世代エネルギーとして世界的に注目されています。燃焼時にCO₂を排出しないグリーン水素は、温室効果ガス削減の切り札と期待されています。
水素の活用は、単に気候変動対策にとどまらず、エネルギー安全保障の強化にも貢献します。国内での水素製造・利用体制を整えることで、化石燃料輸入への依存を減らし、地政学的リスクを低減できるからです。また、再生可能エネルギーの変動出力を吸収するエネルギーキャリアとしても有効で、電力の安定供給に寄与します。さらに、原子力発電の安定した出力を活用した水素製造も進められており、多様な電源と組み合わせることで水素の安定供給体制を築くことができます。
産業分野でも、水素は大きな変革をもたらします。特に鉄鋼業では、水素を還元剤に用いる製鉄プロセスへの移行が進み、CO₂排出削減に大きく貢献します。電力分野では、水素ガスタービンや水素エンジンといった燃焼技術が開発され、既存設備を活用しながらCO₂排出を抑えることが可能です。
水素の普及には、その輸送・貯蔵技術の確立が重要です。現状、水素は常温常圧ではエネルギー密度が低いため、-253℃まで冷却して体積を約800分の1にする液体水素としての輸送が検討されており、大容量・長距離輸送が可能になります。また、既存のガス配管網を転用した水素専用パイプラインの整備も進んでおり、広域的で安定した水素供給網の構築が期待されています。
しかし、水素社会の実現には克服すべき課題も存在します。水素は一部の金属材料に脆化を引き起こす性質があるため、配管やタンクなどの設備の安全性・耐久性確保が求められます。加えて、液化や圧縮にかかるエネルギーコスト、関連技術開発、法制度の整備なども今後の大きな課題です。
当社（株式会社神戸工業試験場）では、水素が「つくる」「ためる」「はこぶ」「つかう」という各段階で革新的技術と新産業を創出する可能性を秘めていると考え、水素環境下における各種材料試験および評価技術の開発に積極的に取り組んでいます。以下に、水素脆化のメカニズムに関する基礎的な解説とあわせて、当社のこれまでの試験実績と今後の技術開発の展望についてご紹介いたします。
水素脆化のメカニズムと課題
構造用材料を水素環境中で使用するニーズは高まる一方ですが、解決すべき課題が残されております。
課題１：水素環境下における構造用材料の強度設計と水素脆化評価
- 従来の設計でそのまま使えるのか？
- 根本的な改良が必要なのか？
強度設計上の懸念点として、金属材料を水素環境下で使用する際には、水素脆化と呼ばれる現象が大きな懸念事項となります。これは、金属材料中に水素原子が侵入し、拡散することによって、以下のような様々な強度特性の低下を引き起こす可能性があります。
- 遅れ破壊 水素が拡散・集積することで、外部応力が一定でも時間の経過とともに突然破壊が生じる現象。
- 引張特性の破断伸びや絞りの低下 水素の影響で、材料の延性が低下し、破断伸びや絞りが小さくなる。これは脆性化の典型的な指標の一つです。
- 疲労寿命の低下、疲労限度の低下 繰り返し応力を受けると、通常よりも短いサイクルで破壊に至るようになり、疲労寿命が短くなる。
- 疲労き裂進展速度の加速 水素の影響で、疲労き裂が進展する速度が通常よりも速くなります。
- 破壊靭性の低下 水素が存在すると、材料中のき裂が進展しながらも粘り強く耐える能力（破壊靭性）が低下し、脆性破壊が
高強度鋼でよく見られます。
また、疲労破壊が生じないとされる応力レベル（疲労限度）も低下することがあり、設計上の考慮が必要です。
これは材料内部のき裂先端に水素が集中し、居所的な脆化を助長するために起こる現象です。
起こりやすくなります。
これらの問題を考慮すると…
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課題２：安全管理とコスト
水素エネルギーの利用を促進するためには、材料の安全性評価だけでなく、試験を実施する上での課題も存在します。
【課題】
- 水素ガスは可燃性のため取り扱いには知識が必要であり、科学的な安全対策が必要
- 水素ガス環境中の材料試験には大掛かりな防爆設備が必要なため、多額のコストがかかる
- 水素ガス環境中の材料試験を受託するサービスは高額になってしまい、水素エネルギー社会の発展に障害となっている
解決策：水素ガス密封型中空試験片を用いた各種強度試験
【メリット】
- 水素ガスを材料の表面にさらした状態での強度試験を実現
- 水素ガス量は極少量。試験片の外に水素ガスが拡散しても安全性を確保
- KMTLのコア試験技術と融合
➡ 多様な試験ニーズに適正価格で対応
■当社における水素材料試験の試験条件、試験領域
■電子後方散乱回折(EBSD）による破断した中空試験片の分析
破断部近傍の断面像を走査型電子顕微鏡（SEM）で観察すると、主き裂とは別に二次き裂が複数発生していることが確認できます。これは、水素脆化が局所的なき裂発生を促進し、最終的な破壊に至るまでに複数の損傷経路が存在することを示しています。電子後方散乱回折（EBSD）法を用いることで、破断箇所の微細組織に関する詳細な情報が得られます。特に、上記マッピング図は水素脆化メカニズムの解明に不可欠です。
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連続電解チャ一ジ式SSRT試験法
電解水素チャージは、金属材料に水素を添加する方法の一つです。水溶液中で試験片を分極し、試験片の表面から水素が材料内部へ侵入・拡散します。この方法は、特に腐食環境中における鋼材の水素脆化や遅れ破壊の研究に用いられてきました。水素脆化は、鋼材中に取り込まれた水素の濃度が高くなるにつれて、材料の脆化傾向が増大します。電解水素チャージを使用することで、実際の環境下での水素の影響を模擬し、鋼材の耐水素性能を評価することができます。(株)神戸工業試験場では、水素チャージ後に大気中での引張試験を実施してきましたが、試験中に水素が脱離してしまうという課題がございました。本資料では、水素チャージをしながら引張試験が実施できる手法を構築し、この課題を解決した事例について紹介します。
連続電解チャージ式SSRT試験法の実験セットアップ
- 試験片に対して、電気化学反応を利用した水素チャージをしながら、SSRT試験が可能になりました。
- 腐食環境で生じる遅れ破壊などの水素脆化評価試験に最適です。電解液、電流値、試験速度など多岐にわたるパラメータの条件設定が可能です。
- 破断後の試験片を液体窒素中に浸漬して、試験片に吸蔵した水素を脱離させずに保管し、水素濃度の分析を実施します。
- オーダーメイドの実験機器の設計・製作から承ります。
応力-ストローク線図
水素昇温脱離分析(TDA)図
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超高圧水素ガス中におけるSSRT試験
疲労寿命試験および疲労き裂進展試験
超高圧水素ガスの圧力容器や配管は、主に水素エネルギー関連の製品やインフラに使用されています。具体的には、水素燃料電池車(FCV)の燃料タンク、水素ステーションの充填設備、また大規模な水素輸送や保管のための施設などに採用されています。これらの容器や配管は、水素の高圧化によるエネルギー密度の向上を実現し、効率的な輸送や保管を可能にするためのものです。超高圧での取り扱いには特別な技術や材料が求められ、安全性を確保するための厳格な基準や規格が存在し、超高圧水素ガス環境中における各種材料試験が必要です。(株)神戸工業試験場では、特殊構造の小型圧力容器を汎用の油圧サーボ型疲労試験機に搭載することにより、超高圧水素ガス中のSSRT試験、疲労寿命試験および疲労き裂進展試験が実施可能です。
自社開発の高圧水素ミニチュア試験装置
SSRT試験や疲労試験用の縦型チャンバー
疲労き裂進展試験や破壊靭性試験用の横型チャンバー
当社は、防爆仕様の専用試験室に関して、兵庫県に『高圧ガス製造事業所』として届け出を出しております。ガス検知器、強制排気ファン、防爆仕様の蛍光灯、定期自主検査の実施など、法令で推奨される安全対策を万全にしたうえで、当該試験を実施しております。
試験手順
超高圧水素ガス環境下における試験実績
SSRT試験
疲労き裂進展試験
疲労試験
当社の各種標準試験片
SSRT試験片
疲労き裂進展|CT試験片
疲労寿命試験片
破壊靭性|CT試験片
KMTLミニチュア試験法の基盤技術
実製品や実部材から試験片を採取し、同様の環境を模擬したうえで、各種材料試験を実施したいというニーズは、あらゆる産業分野において共通するものです。しかしながら、実機から採取できる部材の寸法には制約があることがほとんどであり、必ずしも、一般的な試験規格で推奨されるサイズの試験片を採取できるとは限りません。当社では、ミニチュア試験片を実機より採取し、試験片加工および各種試験を実施する技術の確立に注力してきました。本稿で紹介する高圧水素ガス中の材料試験は、このミニチュア試験法を高圧水素ガス環境に応用した当社オリジナルな試験手法です。下記ボタンから当社ミニチュア試験法についてのサービスをご覧いただけます。
鋼中の水素拡散係数の測定および解析
金属中の水素原子は、他の溶質原子(例えば、炭素など)に比べて、著しく速く拡散することが知られております。多くの研究者が、材料中の水素拡散が水素脆化の主因であることを指摘しています。(株)神戸工業試験場では、水素拡散係数を実験的に取得する方法について検討しました。また、実験的に取得した水素拡散係数を用いて、時間とともに変化する水素の濃度分布をFEMで解析した事例について紹介します。
放出法による水素拡散係数の測定手順
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フィッティング解析の結果
FEM解析による拡散シミュレーション
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社会の安全・安心を支える、疲労試験やクリープ試験をはじめとする多様な材料試験をご紹介します。